人間は人間の脳を理解することができるかこの投稿は私が2020年2月19日から4日間にわたって「京都大学ELP主催 短期集中講座 『脳と心』 脳科学の新潮流」を受講し、その結果自分なりに悟った内容を記載するものです。ただし、これは講義の内容(もっというと脳科学)を解説するものではなく、受講した結果私が思いついたことを勝手に述べているものであることをご了承ください。
脳模型による思考実験私の脳に対する理解を説明するために、一つの思考実験を行います。全知全能の神が存在し、その神が私の脳の模型を作ったと仮定します。その模型には私の脳のニューロンとそのシナプスが忠実に再現されています。その模型には特別な機能があり、模型の中の一つのニューロンを触ったときに、対応する概念(言語/ボキャブラリー)が存在する場合は、その模型がその内容を喋ってくれます。たとえば、
- しょうゆ顔の顔を見たときに発火するニューロンです
- 焼き鳥を思い出すときに発火するニューロンです
- 昨夜焼き鳥を食べたことを記憶しているニューロンです
のような感じです。しかし、対応する概念が無い場合は、その番号だけを答えてくれます。
- 無意識の312,354,323,213番ニューロンです。
- 無意識の331,163,096,300番ニューロンです。
- 無意識の80,187,327,537番ニューロンです。
というような感じです。ここで、前者を「意識ニューロン」、後者を「無意識ニューロン」と呼ぶとします。
では、この模型のニューロンを無作為に触って、意識ニューロンにあたる確率はどのくらいでしょうか?
母数であるニューロンの数の方はわかっていて、約1000億個と言われています。
これに対して、意識ニューロンの数はどのくらいでしょうか?人間の語彙数が10000程度であるところから類推して、せいぜいその2乗である1億個程度ではないかと思われます。この類推の根拠はないのですが、日常会話の内容から考えると、直感的にはもっと少ないのではないかと思います。
ただし、ニューロンは冗長化されており、一つの概念が同じ意味を持つ複数のニューロンで実装されているので、その冗長化の係数として10を想定し、10億個であるとしておきます。
つまり、楽観的に見積もっても、模型のニューロンを無作為に触って意識ニューロンにあたる確率は1% ということになります。
概念の共有のための拡張さて、上記で「対応する概念がある場合/無い場合」と書きましたがこれは脳の模型の本人が触ることを仮定しています。
他人が触る場合を仮定すると、本人は意識にある概念であるが、触った人の方には対応する概念がない場合が考えられます。そこで、機能を拡張して、脳模型の本人の意識にはあっても触った人には概念がない場合、模型はその概念の番号を答えてくれることにします。
- 未知の概念1252番のニューロンです
- 未知の概念43222番のニューロンです
というような感じです。他人の脳模型で未知の概念に出会うケースとして
- 模型の脳が自分の知らない知識を持っている
- 模型の脳が個人固有の概念を持っている
などが考えられます。この模型では、複数の人間が同じ概念を持っている場合はそれらの人は同じニューロンを持っているということになります。
人によって言葉の割り当て方が微妙に違っていて一つのニューロンに違う言葉が割り当てられている場合や一つの言葉に対するニューロンが人によって異なる場合もあるかもしれません。
しかし、模型を生み出しているのが全知全能の神なのでそこは上手くやってくれることにしておきます。
いずれにせよ、これらを考慮してもやはり、無意識ニューロンのほうが圧倒的に数が多く、相変わらず、脳のニューロンのほとんどは無意識ニューロンであると言えるでしょう。
脳を理解するとは脳を理解するというのは、この無意識ニューロンにラベルをつけることであると言えるのではないでしょうか。もし、すべての無意識ニューロンに意味のあるラベルをつけることができれば、脳に対する入力から最終的な出力が出るまでのニューロンの発火パターンを推測し、ルール化することができるように思われます。
実際に認知心理学者や脳科学者が行っているのはこの無意識ニューロンに対するラベル付けの作業であると言えるのではないでしょうか。
しかし、前述の楽観的な見積でも99%が無意識ニューロンであり、多少ラベルをつけることに成功したとしても脳に対する理解をすすめることは難しいと感じます。
シンギュラリティは来るかブログでシンギュラリティにふれるのは二回目ですが、私は上記の思考実験の結果、今回もシンギュラリティ来ないと判断しました。意識ニューロンに比べて無意識ニューロンのほうが圧倒的に多いにも関わらず、我々は意識ニューロンのことしか考えられていないように思われるからです。
人類はいまだにモランベックのパラドックスから抜けることができておらず、無意識ニューロンの洪水に溺れたまま浮上することができそうにありません。
ディープラーニングは新しい計算手法であり、それを使って革新的な新しいアプリケーションを開発することは可能ですが、そのことと脳を理解することとは関係ありません。
もし、ディープラーニングで脳と似た動きをするものを開発できたとしても、その重み付けの行列式の数値が無意識ニューロンと同様に理解不能なものであれば、仕組みを理解できないシステムとなり、なににも応用できないものと思われます。